「9.11以降」アニメを作ってみた? そこから見える「3.11以降」の世界
現在観測 第9回
さて映画祭の帰り、何を作るべきか色々考えました。今回のような完全なインディペンデントで制作する場合、多くの人は短編作品で映画祭に勝負します。
そこで「9.11以降」作品がここまで海外の潮流になっている現状を踏まえようと考えてみるのですが、実写で、日本での撮影や東洋人が演技する作品になると、いまひとつ、その空気感が出せないような気もします。果たして何をすべきなのか?
そこから初めて「アニメを作る」という発想が出てきました。アニメなら人種や地域の先入観なしで、そのテーマにコミットできるのではないかと思ったのです。つまり前述したA=日本の特産であるアニメで、かつB=「9.11以降」という海外でのムーブメントに参入するという折衷案です。ここで「アニメ」+「短編」+「9.11以降=ハード描写の問題提起型風刺」のエレメントが出そろいました。
かくして考え出したのが『カニバル星人』というアニメーションです。
「カニバル星人という宇宙人によって人間が駆逐された未来の地球。我々人間は食用の肉材として日々美味しく食べられていたが、人間食反対を叫ぶエコ系テロリストのカニバル星人が、市場の肉に致死ウィルスを混ぜてフードテロを敢行、人肉を食べるカニバル星人の社会に食のパニックが起きるが、食品企業と結託した政府も影で暗躍し――」というまさに9.11以降的ブラックコメディ。
アメリカの映画祭でもこの手の社会風刺アニメは散見され、国内外で狂牛病、鳥&豚インフル、偽装といった食の問題が多発したこともインスピレーションになりました。
今社会で起こってることを「人間×動物」から「カニバル星人×人間」に置き換えることで起こる強烈な不条理。アニメなのでハードであっても生々しさは制御できます。何より食肉から垣間見える様々な矛盾はアメリカだけでなく世界に訴えられます。
しかし、あくまで作品は中立でなければならず、食肉反対などに偏ったら只のプロパガンダになってしまいます。そういう意味ではクリエーターである僕が、動物好きかつ、まったくベジタリアンでない所がイイのです。
「9.11以降」は、矛盾を自覚した送り手が問題提起をしつつ、その答えを観客に委ねるスタンス。つまり「王様は裸である」と是も非もなく訴えるわけです。
さらに推し進めて、カニバリズムとは良く「人食い」の意味で使われますが、もうひとつ「共食い」の意味もあります。企業が利益追求の為に危険な部位の肉を承知の上で市場に流すなら、これもまた消費者を食いものにした近代的なカニバリズムなのではないか。
つまり「カニバル星人=人間だ!」といった結論にたどり着きました。これはなかなか上手いんじゃないかと我ながら思えて、帰りの飛行機の中で「こら世界が変わるな」などと思い込んでニヤニヤしていたわけです(笑)。
さて日本に帰ってきてから今までの制作仲間や知人を招集し、開口一番言いました。
「次はアニメを作る。タイトルは『カニバル星人』だっ」
そこで何人かに気がふれたと思われた様でした。それ以来連絡が来なくなった友人もいます。
まず脚本とキャラクターデザインに着手しました。このあたりは割とスムーズに進みましたが、実質のアニメーションを制作するところを探すのに大変難儀しました。
制作会社、地方にいて個人でCG制作している人など、確か全部で20件は回った覚えがあります。なかには最近になってかなり有名になった人もいますが、皆一様に内容が理解できない、というより何が理解できないのかが理解できないといった感じで、シナリオに呆然とされるか強く拒絶されるかが大半でした。仕事としてならまあやってみますが、ってところもありましたが、いまひとつノリが悪い。
日本にはそういうマーケットがないだけで、海外物に馴染んでいれば面白がる人が多数と思い込んでいましたが、「9.11以降」というジャンルがない上に、そもそも風刺やブラックジョークという文脈自体が、僕の想像以上に希薄だったのです。